和牛について
現在、約25頭ほど黒毛和牛を飼育しています。このうち14頭は母牛で、一年一産を目標に繁殖していて年間14頭の子牛が生まれる算段ですが、なかなかそうはうまくいかない。それでも牛舎や放牧地にはいつも常に10頭前後の子牛がいて、小さな牛がぴょんこぴょんこ走り回る姿はとても愛くるしいです。
中澤農園の家畜の起源は、初代由兵衛の頃にはトラクターや重機のない時代の働力として、農作業の馬耕や山から木材を運びだすために馬を飼っていました。二代目の利幸は働力としての馬のほか酪農家からの委託でホルスタインのオスを預かって育てる預託や競走馬の軽種馬も育て、平成の始まり、和牛に切り替えました。とにかく動物が好きな人だった。温厚な性格で、丁寧に動物たちと向き合う人柄が動物にも伝わるのでしょう。牛の中には人に対し警戒心が強い性格の牛もいるが、祖父には撫でさせたのでした。
和牛農家は大別すると3種類あり、1つめは和牛子牛を生産するブリーダーとしての繁殖農家、2つめは子牛をお肉になるまで育て上げる肥育農家、3つめはそれらを一貫して行う一貫経営農家。わたしたちはそのなかでも繁殖農家です。母牛の発情を発見し、獣医さんに人工授精をしてもらう。約285日の妊娠期間を経て分娩。子牛がすくすく育てば4ヶ月ほどで離乳し、飼料をもりもり食べて約300日で300~350 kg まで大きくなる。1日1 kg 太るということになる成長スピードに驚かされます。そして約9~10ヶ月でセリへ。日本全国からバイヤーが買付に来ており、子牛たちは全国各地へ、遠いところでは四国や九州まで行きそれぞれの土地のブランド牛となります。
近年高値で売れる血統のトレンドは、勝早桜5、美国桜、百合茂、百合白清2、福之姫、幸紀雄というような名前です。和牛らしい名前ですよね。血統によっては上質な霜降りになる血統、体が大きくなりやすい血統とがあり、それを、父・祖父・曽祖父のそれぞれにいかにうまく組み合わせて行くか、血統によって価格の50%が決まると言えます。残りの50%は、いかにバランス良く育っているかである。太りすぎてもだめで、骨格のバランス・肉付きのバランス・体重と日齢・牛の様子を吟味しながらバイヤーは手元のスイッチで競り落としていく。ちなみに雌牛に対しては、理想的な体型を競う「和牛共進会」と呼ばれるミス和牛日本一を決めるコンテストもあります。牛の世界も大変です。
私にとって牛は、経済動物としての収益源でもたしかにあるが、かわいいペットのようでもあります。母牛も子牛も手をかければかけるほど人懐こくなる。クシやブラシでかゆいところを撫でると、おっとりじっとしている。特に冬から春にかけて毛の生え変わりの時期に撫でると、アフロヘアーのカツラが作れるほど毛が抜けてくる。冬には-20℃より更に寒い日がある穂別の地で、彼女らは生き抜いていく。雪を背中に積もらせながら、外でじーっと佇んでいたり、寒さでヒゲや体毛が白くしばれても頑張って生きている。この文章を書いている3月上旬現在、彼女らも、早く春が来てほしいときっと願っている。広い放牧地で青い草を食み、そのまま大地に寝そべりゆったり反芻するというのが、彼女らの幸せなのだ。鹿と、キツネとタヌキと、時々クマと、自然を分け合って生きている牛たちは今日も春を待ちわびている。